「ケイゾウさんは四月がきらいです。」市川 宣子
「ケイゾウさんは四月がきらいです。」
市川 宣子 : 作 , さとう あや : 絵
福音館書店 , 128p. , 2006年
ISBN : 978-4834021981
今週末には、もう三月。卒園・卒業シーズンですね。
春は別れと出会いの季節。…というのはこの時季の定型句ですが、
それは、人に限ったことではないのかもしれません。
この本の主人公、幼稚園で飼われている雄鶏のケイゾウさんも、その一羽。
今日の1冊は、4歳くらいの小さな子から、ワクワクハラハラ楽しめる短編集。
そしてきっと、大人になるほどシンクロする視点が増えて、面白く読める一冊です。
この4月、ケイゾウさんの幼稚園に「みみこ」という白うさぎがやってきました。
ただでさえ4月は子ども達が当番に慣れていなくてエサを忘れられやすいのに、
今年は皆が「みみこ」にエサをあげたがるので、ケイゾウさんはすっかりハラペコ。
ある日、飼育小屋の扉が開いている(当番の子が鍵をかけ忘れた)ことに気付いた
ケイゾウさんは嬉々として小屋を脱出し、久々にお腹一杯になったのですが…。
(※第一話「ケイゾウさんは四月がきらいです。」冒頭部あらすじ)
ケイゾウさんのルームメイト(?)となる「みみこ」がやってきた4月から物語は始まり、
白木蓮の咲く頃、毎年恒例の「お見送り」をする3月のお話で、この本は終わります。
お話の長さは、一話あたり大体10ページ前後と短いですが、その一話一話が
ぎゅっと密度濃くリズミカルに進むので、面白いショートフィルムのように印象に残ります。
「クールでニヒルな3枚目」を、(恐らくほとんど自覚無く)地で行く雄鶏のケイゾウさんと、
「自分が可愛いことを知っていて、それをちゃんと活かしている」うさぎのみみこ。
この二羽のやり取りはとてもテンポが良くて、読んでいてクスッと笑いがこぼれます。
※「絵本ナビ」の紹介ページで、2話目の最初のページが試し読み出来ます。
絵本ナビ 「ケイゾウさんは四月がきらいです。」紹介ページ (ためし読みLink)
毎回のように「これが児童書!?」と驚くような作品を上梓される市川宣子さんの文章と、
達観したような表情のケイゾウさんを初めとした、さとうあやさんの味わい深い挿絵。
(読了後に表見返しと裏見返しを見直すと、一年の変化が伝わってきて嬉しくなります。)
読んでいると時々ふいに子供の頃の飼育小屋の動物たちを思い出す、一冊です。
備 考
福音館創作童話シリーズ
イチカワ ノブコ , サトウ アヤ
ケイゾウサンハシガツガキライデス