「旅の絵本Ⅱ」安野 光雅
「旅の絵本 II」(旅の絵本 : 2)
安野 光雅 : 作
福音館書店 , 48p. , 1983年
ISBN : 978-4834007305
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「旅の絵本 II 」改訂版 (旅の絵本 : 2)
安野 光雅 : 作
福音館書店 , 52p. , 2006年
ISBN : 978-4834022490
先月末、愛知県春日井市のギャラリーで行われている
『安野光雅 – 絵と文学の出会い -』を観にいきました。
2006年に刊行された『旅の絵本Ⅱ』改訂版の原画も、たくさん見ることができました。
今日の一冊は、この原画展の目玉の一つだった「旅の絵本Ⅱ(イタリア編)」より。
展覧会で原画を見ていて思ったことと、自宅で新版と旧版を対照しつつの感想です。
手元にあるのは色もモチーフもあちこち異なる旧版だったので、
新版の原画はどれを見ても新鮮で、楽しくて。
展覧会を一渡り観た後、もう一度最初から回ってしまったほどでした。
安野さんがライフワークとしておられる『旅の絵本』の世界編第2巻は、イタリアが舞台。
キリストの一生や童話、映画をモチーフにしているところは新旧変わりないのですが、
新版では旧版に何十にも輪をかけて、ありとあらゆるところに物語が隠れていて、
観るたびに発見がありました。
背景に溶け込んだアダムとイブから始まり、
東方の三賢者、受胎告知、エジプト逃避行、最後の晩餐…と続き。
時計ウサギがいたり、三匹の子豚がいたり、ピノキオやシンデレラやラプンツェルがいたり。
マクベスの三人の魔女らしき人影があるかと思えば、『七年目の浮気』のマリリンがいたり。
鋳物の歴史のようにも見える製鉄・鐘撞きのストーリーが、淡々と後半に繋がっていたり。
安野さん自身のモチーフ(『ABCの絵本』や橋桁の看板)も、さらりと紛れ込んでいたり…。
本当にこの「旅の絵本」のシリーズは、どのページを見ても楽しくて、発見があって。
繰り返し繰り返し手にとってしまいます。(それはきっと、大人も子どもも変わりなく。)
原画だと印刷に出ない微妙な色味やペンの強弱などもハッキリと見えて尚更美しく、
安野さんの精密に描き込まれた絵は一枚一枚の情報量もものすごくて…
展覧会ではもうどれだけ見ていても見飽きることなく、時間が足りないほどでした。
(いずれ泊まりで津和野の「安野光雅美術館」に、行こう!と改めて決意しました。)
カバーイラストからも分かるとおり、旧版と新版ではモチーフや色使いが変わっています。
新版と旧版の間には20年以上の時の流れがあるため随分雰囲気が変わったページもあり、
その点は、好みによって評価が分かれるところかもしれません。
けれど、新版が刊行されたメリットとして、確実に言えることがひとつ。
新版は、「印刷技術の進歩って、すごい!」と内心で驚いたほど、発色が綺麗です。
原画の魅力や引力がグッと弱まってしまうのは、本が印刷物ゆえの宿命のようですが、
この変化は見比べてみると一目瞭然で、新版を初めて見たときとても嬉しくなりました。
会場に置かれていた「さんいんキラリ」という冊子の特集記事の中で、
安野さんは絵を描くことについて、こんな風に語っておられました。
「絵を描くことは 手本を真似ることでも、
目の前のものをそっくり写すことでもなく
そこに物語を発見し、それを描くこと。」
「空想力と同じくらい、自分の現実をとらえる客観性が大切。
(中略)
空想は 足元がしっかりしているからこそ楽しめる。
僕の絵は夢の世界に見えるかもしれないが、
根っこには合理的、科学的精神がある。
これは子どもの頃に培われたものですね」
『さんいんキラリ』(2008年春号)p.56~p.57より、一部抜粋
この記事を読んでいて、安野さんの本も、エッセイも、数々の作品を観ていても、
確かに静かにハッキリと、芯にはこの視点があることに改めて気付きました。
そしてこの視点は、絵を描くこと、絵描きさんのスタンスだけにとどまらず、
安野さんの作品に惹かれて彼の本をそれぞれに楽しみながら読む読者にも
確信的にさりげなく手渡され、伝えられているような気が、しています。
たしかに、心のどこかにこの視点を忘れずにいられたら…それは、きっと、とても楽しい。
気づけるものや、見えるものが増えそうで、わくわくします。
M e m o
「安野光雅 絵と文学の出会い」
場所 : 文化フォーラム春日井(春日井市役所となり)
会期 : 2013年2月16日(土)~3月17日(日)※月曜休館
時間 : 10:00~17:00 (入場は30分前まで)
入場料 : 一般¥500、小中学生¥300
http://www.kasugai-bunka.jp/2013/02/post_964.html
備 考
日本傑作絵本シリ-ズ
アンノ ミツマサ
タビノエホン ニ : イタリアヘン