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アイコン 「まよなかの魔女の秘密」岡田 淳

 

9784652006122「まよなかの魔女の秘密」(こそあどの森の物語 : 2)

岡田 淳 : 作・絵

理論社 , 192p. , 1995年

ISBN : 9784652006122

 


 

この世界は静かで穏やかで、それでいてわくわくもあり、幻想的で、少しさみしい。

そんな「こそあどの森」に住む「ある大人」が、今回のキーパーソン。

大人の想いの物語。いちばん大切な人の秘密にまつわる、物語です。

 

10冊目の今日取り上げるのは、小学生の頃からずっと大好きな作家さんの本。

中でも、大人になってから読むたびにどんどん好きになっている一冊です。
 


 

こそあどの森に住むスキッパーは、本を読んだり化石を眺めたりするのが好きな少年です。

大嵐だった夏至の翌日、彼は家のそばで一匹の小さなジバシリフクロウを見つけました。

飛ぶことよりも走ることが得意なジバシリフクロウは、こそあどの森にはいないはずの鳥。

気になったスキッパーは、この鳥をつかまえて家に連れ帰り、飼おうとします。

ところがなんとこのジバシリフクロウ、普通の「めずらしい鳥」ではありませんでした。

スキッパーたちの言葉が分かる上に、タイプライターを打つことまで出来るのです。

 

タイプライターを前にしたジバシリフクロウは、長い長い文章を打ち始めました。

どうやら、どうしても伝えたい「秘密」があるようなのですが…。

 


 
この森でもなければ、その森でもない。

あの森でもなければ、どの森でもない。

こそあどの森には、個性的な住人たちが、個性的な家に暮らしています。

主人公のスキッパーが住むのは、ウニを乗せたような形をした船、ウニマル。

湖にある巻貝の家に住む双子は、遊びが大好き。自分たちの改名さえ、気分次第。

小柄なポットさんと大柄なトマトさんは仲良し夫婦で、湯わかしの形の家に住んでいます。

寡黙な大工のギーコさんと、少し皮肉屋のスミレさんは、ガラス瓶の家で姉弟二人暮らし。

木の上の屋根裏部屋に住むトワイエさんは、作家さん。考えながら訥訥と話す人です。

 

「こそあどの森」のシリーズは、2013年2月現在、10巻まで刊行されています。

作品同士の間に淡いリンクはありますが、基本的に一巻完結のシリーズです。

住人同士が互いに近付きすぎない距離の親しさで、それぞれの日常を暮らしていて、

静かで幻想的で、時々ピリッとユーモアとスパイスの効いたキャラクターやストーリーは

「日本のムーミンシリーズのようだ」と評されることもありますし、

国際アンデルセン賞の推薦本(オナーリスト)にも挙げられています。

「日本のムーミン・シリーズのよう」という評を最初に見た時、私は思わず膝を打ちました。

静かで穏やかに見えながら、どこか仄暗さと寂しさと、不思議な明るさを持っている…。

そんな「こそあどの森」の世界観を、分かりやすく伝えている気がしたからです。

 


 

このシリーズの最初の巻「ふしぎな木の実の調理法」が刊行されたのは1994年。

今からもう20年近く前のことですが、「ムーミン」のシリーズ同様(1945年に初版刊行、

70年近く経った現在までずっと、世界中で愛読されています)、全く古さはありません。

ファンタジーだから。というのも勿論あるでしょうが、それ以上にこの作品の世界観と各巻の

テーマ、登場人物、作者である岡田さんの文の力、そして岡田さん本人が描いておられる

時代に左右されない画風と空気感のある魅力的な挿絵の力が、とても大きい気がします。

作者の岡田 淳さんは、神戸の小学校で図工の先生として38年間勤め上げた方です。

イラストレーターとしてもベテランで、例えば見返しの地図やカバーそでのキーワードイラスト、

まるで絵本を見ているかのような目次や登場人物紹介ページなどなど…一冊の端々まで丸ごと

全部が「こそあどの森ワールド」になっており、ページを繰るほどにワクワクが高まるところは、

まるでおとっときのおもちゃ箱のようです。

 

最近刊行されたエッセイ(※)によれば、赴任校で子ども達と話す中で出来上がった物語も

数多く、「なるほど、道理で登場する子ども達や学校の空気が活き活きしているわけだなぁ」

と、しみじみ納得がいきました。現実的で、良い意味でドライで、楽しくて、気取らない。

直接「出演交渉」できた子ども達が、少し羨ましくなってしまったくらいです。

(※岡田 淳「図工準備室の窓から」偕成社 , 2012年 , ISBN : 9784030034006)

 


 
「こそあどの森」のシリーズはもちろん、岡田さんの著作はどの本も大好きなので、

10回目の更新は、岡田さんの本にしよう。と、いつからか思っていました。

その一方で、どの本を最初に紹介しようか、とても迷いました。

今回ピックアップした「まよなかの魔女の秘密」は、どこもかしこもネタバレになる一冊です。

冷静に考えて、多分、紹介向きの本ではないだろう。とも、思いました。

けれどこの数週間、岡田さんの作品をもう一度全部読み返していて、

今の自分がいちばん惹かれる物語を紹介しよう。と、考えがまとまりました。

最後のページの、ポットさんのこの言葉の意図がすんなり納得できるようになったのは、

私自身も少し大人になったからかもしれないな。と、ほんのりと切なさを感じつつ思います。

 

「ひとりで、こわくない?」

「楽しませてもらうよ」

え、とポットさんの顔をみると、ポットさんはにっこり笑って、スキッパーに片目を

つぶってみせました。

スキッパーは、ポットさんのいうことってほんとにわからないなあと思いました。

そして、大きなあくびをしました。

 

大なり小なり、誰しも秘密はあるもの。

けれど、その秘密を楽しんで受け容れられるのは、

その人が「大人」だからなのかもしれないな。と、思います。

 


 

備 考

オカダ ジュン

マヨナカノマジョノヒミツ

コソアドノモリノモノガタリ : 2

シリーズ装幀: はた こうしろう

 


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