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アイコン 「ミラクル・ファミリー」柏葉 幸子

 

9784062086530「ミラクル・ファミリー」

柏葉 幸子 : 著 , 徳永 健 : 絵

講談社 , 166p. , 1997年

ISBN : 978-4062086530

 


 
九人の父親を描いた、九つの家族をとりまく物語。一話読みきりの短編集です。

 
子どもの本では「母と子」を題材にした作品がよくありますが、この本では全編通して「父親」が鍵。
「お父さん」も「オヤジ」も「パパ」も――別の呼称の方がぴったりくる父も、出てきます。

 
内容は、思わずくすっと笑ってしまうものやファンタジックなもの、日本的ホラーにゾクッと肝が冷えるものや、大人になった今読むからこそ登場人物の行動が理解できるもの。そして、自然と涙がこぼれてしまうものまで、様々です。

 
子どもの頃に読んでも十分面白い作品ばかりなのですが、
この本はぜひ高校生以上の人にオススメしたい一冊です。

 


 

その中でも特に好きな作品について、2編紹介。

 

「たぬき親父」
この話が、何度読んでもとても好きです。この本の中では、多分一番シンプルなお話なのに。

 
それはこの「オヤジ」が、どことなく自分の父に重なるかもしれない。と、最近気づきました。

子どもの頃、父の昔話や青年時代の一人旅の失敗談などを聞くと、その後で見る「父の顔」は、

よく知る「父親の顔」とは少し違っていて。

それでいて、いつもの父の顔からも自然に繋がって見えていて。

…それは、少し不思議で、とても面白い感覚でした。

 

親にも、子どもの頃がある。「親」以外の顔がある。

大人になった今思えば当たり前のことですが、子どもの頃はそれがとても新鮮でした。

昔話を聞くと、子どものころ「保護者」として「一番身近な大人」だった父のことも、

まるで親しい同級生が一人増えたかのように感じられて、「家族」とは違う目線で

身近に思えるのがとても楽しくて、嬉しかったです。

 

このお話に登場する「オヤジ」は、流石柏葉ワールドの住人、とても話し上手。

真面目な表情で真剣に語られる昔話に、主人公と一緒になってすっかり聞き入ってしまいます。

 
最後のオヤジの一言がまた、本気の本音で大真面目で。
それでいてどこかほのぼのとして茶目っ気たっぷりで、とても良い。
ついつい笑ってしまいつつ、「あぁ、こんな風に遊べる大人でありたいなぁ」と思います。

 


 

「ミミズク図書館」
夜、子どもたちが「自分が好きな本」を持っていくと入れる(教科書やつまらない本、

一度も開いたことがなさそうなピカピカの本では、入らせてもらえない)なんて、

一体書架にはどんな本が並んでいるんだろう。大好きだったあの本も、並んでいるかしら…。

と、想像するだけでもわくわくします。

 
そして、小学生だったお父さんと少年のやりとり、そしてミミズク司書との無言の会話も、

ラストも、とても良いです。

 

「夜+ミミズク+図書館」とくれば、ヘーゲルのミネルバの梟を連想しやすいけれど、

ミミズク図書館の窓から漏れる明かりは、「そんなに小難しく考えなくて良いよ」と

言っているような気がします。

 
よく手入れされた本棚と向き合った時や、面白そうな本に手を伸ばす時のわくわくを知っていること。

図書館に(多分、身近な本屋さんにも)入る「資格」は、実は、それだけなのかもしれない。

そう思えてくる、お話です。

 


 

作者の柏葉幸子さんは、もう何十年もコンスタントに面白い児童書を出し続けているベテランです。

 
柏葉さんの名前を知らなくても、『霧のむこうのふしぎな町』(※)や、教科書に載ったこともある『エバリーン夫人のふしぎな肖像』、小学低学年から楽しめる『モンスター・ホテル』シリーズ、アニメ化もした『ファンファンファーマシィー』のシリーズなどを読んだことのある人や、耳にした事のある人は、意外と多いのではないでしょうか。

 
※デビュー作でもある『霧のむこうのふしぎな町』は、“働かざるもの食うべからず”を、ユーモアとペーソスたっぷりに(そして、ピリッとナンセンスも利かせて)書いた物語。宮崎駿監督に『千と千尋の神隠し 』 制作のきっかけを与えた物語としても知られています。

 
一歩間違えばお説教くさいばかりになってしまいそうなテーマでも、柏葉さんの筆にかかればそんな気配はどこへやら。

さりげなく仄めかされている大人の『希望』などあっさり放り出して、お話の中でわくわく遊べてしまいます。

 
それは、ちょっと対象年齢の上がったこの『ミラクル・ファミリー』や、同じ世界観を持つ『ブレーメンバス』でも、健在です。

柏葉幸子さんは、児童書お約束のテーマを語っているように見えて、

その実、行間にはまったく別の(大人好みの)テーマを織り込むのがとても巧み。

大人にこそ勧めたい作家さんです。

 


 

目 次
「たぬき親父」

「春に会う」

「ミミズク図書館」

「木積み村」

「ザクロの木下で」

「「信用堂」の信用」

「父さんのお助け神さん」

「鏡よ、鏡…」

「父さんの宿敵」

 

Memo.

※単行本は現在絶版ですが、文庫版があります。

「ミラクル・ファミリー」柏葉 幸子 : 著 , 講談社文庫版

講談社 , p.174 , 2010年 , ISBN : 978-4062766692

 

備 考
ミラクルファミリー

カシワバ サチコ

 


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